【5】シャー・ルク・カーン物語 [シャー・ルク・カーン物語まとめ]
幼いシャールクは見ての通り愛らしく、いたずらもするけれどおもちゃのピアノで何時間も一人で機嫌よく遊んでいたりもする子でした。3歳頃のある日、ファティマが用たしにでかけたとき、部屋に毒蛇が入ってきたことがあります。当時住んでいたラジンデル・ナガルは緑が多く、蛇が家屋に侵入してくることも珍しくなかったのです。ファティマが戻ったとき、シャールクは自分の周りにミルクをこぼし、蛇を近づけないようにして椅子に座っていました。
背筋を傷めたり、マラリアにかかったり、しょっちゅう犬に噛まれたり、小さい頃から病気や怪我は多かったようです。いたずらも盛大で、ファティマのプラスティックのバングルを溶かす実験をしたりもしました。寝るときには父親のミールがお話をしてくれます。物語よりも独立運動に関わった興味深い人物が登場する実話が多かったそうです。夏はミール以外の家族で、バンガロールの裕福なファティマの実家で過ごしました。親戚のおばさんたちは、音楽に合わせて歌ったり踊ったりするシャールクを見て、「この子は将来レディキラーになるわよ」と笑いました。
シャールクは小さい頃から女の人達が大好きでした。本人の一番古い記憶は、ベランダの塀に腰掛けて、通りをゆくきれいなお姉さんに投げキッスをし、"Hey, sweetheart!(やあ、カワイコちゃん)"と言っていたことだそうです。ある日、17~8歳の娘さんがやってきて、応対に出たミールに言いました。
「お宅の息子さんが、私に投げキッスをしてくるので困ります。」
ミールは、近所に住む若者とでも間違えているのだろうと思って言いました。
「私の息子はほんの子どもですよ、お嬢さん。家をお間違えじゃないですか?」
そこへ風呂上りのシャールクがやってきて、「やあ、カワイコちゃん!」と言って、チュッと投げキッスをしたのです。ミールはあっけにとられました。
シャールクの投げキッスは絶品だし、ファンであろうと、ファストフードの女店員であろうと、女性にはいつも"sweetheart"とか"darling"と愛情深く呼びかけます。こんなに小さい頃からなんですね。
別の日には、怒った中年の女性がやってきました。
「お宅の息子さんが家の娘に声をかけるので困ります。」
ミールは応えて言いました。
「あなたのお嬢さんがお母さんと同じくらい魅力的なのだとしたら、私は息子を叱れませんね。」
女性は機嫌を直して帰って行きました。シャールクの当意即妙のウィットは確実に父親譲りです。
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《続く》